※ゲーム上、話しすぎると不利になる可能性があります。
重い傷で体が自由に動かせないことには同情するが、ヤーコフのことはなんだか好きになれない。柔和な顔つきの奥に、ぼくたちとは違った雰囲気を感じる。
介抱の世話の折に教えたぼくたちの「戒律」や「祈りの言葉」の飲み込みも早く、神への信仰心は本物のようだ。しかし、何を考えているかわからない不気味さがある。
そもそも、ヤーコフを拾ってきた木こりのユスチン。この男のこともぼくは信用していない。
以前イワンの家に遊びに行った際、村の南端のさらに先へ向かおうとするユスチンを見た。
食糧や雑貨を抱えていたが、ユスチンの家は村の北端あたりのはず。何か怪しい。
昨日の行動。
早朝から正午まで、聖堂でのヤーコフの介抱の当番はぼくのはずだったが、前日にナターリヤに頼んで代わってもらうことにしていた。
その日は父、アズレトが家にいる日だったので、読み書きを教わっておきたかったのだ。
母は前日から夜通しで世話番だったらしく、寝室で休息していた。
父は朝からつきっきりでぼくの勉強をみてくれた。賢く、優しく、尊敬できる人だ。
そういえば、最近ナターリヤは家族の話をしなくなったな。彼女も唯一の血縁である父親のことをとても敬っていたはずなのに。
正午。日課の祈りを捧げ、昼食をとったあとにも読み書きの練習を続行した。
夕方、村の北端の井戸へ水汲みにいくため、勉強を中断する。帰ったらまた父に勉強をみてもらうことを約束して家を出る。井戸に着いたのは、日が沈む1時間ほど前だ。
無事に汲み終わって帰ろうとしたとき、水瓶を抱えたヴァルヴァラが井戸へ向かって来た。
1年前、ヴァルヴァラは夫を病で亡くし、その葬儀が聖堂で行われた。そのしばらくあとからすっかり姿を見かけなくなった女性だ。ひ弱そうな体が痛々しい。
ヴァルヴァラは周囲に人影がないか気にする様子で、ひっそりと水を汲もうとしていた。
声をかけづらく、ぼくは隠れるようにして井戸を去った。
ふと空を見上げると、遠くに煙が立ち昇っている。山火事でもあったのだろうか。
家に戻ったのは、日が沈む30分ほど前だった。父の姿はなかった。
「ついさっきまでここにいたようだけど、ピョートルさんに呼ばれて急いで出ていったの」
母はそう言って、しばらくしてから世話番のために聖堂へ出かけて行った。
練習がてら「祈りの言葉」を紙に書き写しながら、父の帰りを待つ。
「・・・我々は空を仰ぐ。我々は神のみを信じる。心には安寧を、魂には永遠を・・・」
夜も更けたころ、父、アズレトは憔悴した表情で帰ってきた。服は黒く汚れていた。
「父さん、一体どうしたのですか!?」
「・・・目をそむけてきた私の責任です・・・」
「え?」
「・・・そうするべきではなかったのに・・・」
それっきり会話はなく、不安を感じながらもぼくは寝床に入った。