あらすじ
ああ・・・王立学術院の方々。
よくおいでくださいました。どうぞおかけになって。
研究にご興味を持っていただいたようですね。
たしかに私の論説の内容は、あなたがたにとって珍奇なものだったでしょう。
・・・しかし、
私からすれば、あなたがたの考え方こそ新鮮に思えます。
遠い故郷を離れ、この王国に移り住んでからもう随分と月日が経ちましたが、
いまだに慣れないものです。
文化、風習、人間観・・・
もちろん、この国での生活のために与えられた名前も。
だからこそこの研究に辿り着いた。
さて、研究の概要についてご説明する前に・・・
まずは私たちの認識についておわかりいただけるよう
ある出来事についてお話しいたします。
我が郷里、『仮面の民』と呼ばれる者たちのこと。
彼らの考え方のこと。
彼らの記録にもとづいてお伝えしましょう。
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乾いた風。果てしなくひろがる平原。
『仮面の民』が住む大地。
皆、色とりどりの壮麗な仮面で顔貌(がんぼう)を覆う。
それぞれの役割を、それぞれが担う。
ロバやヤギを飼い育てながら、平和を美徳として生き、
心臓の鼓動が止まれば、その肉体と仮面は厚く葬送される。
そして、信頼の証である『つづりあわせ』を頻繁におこなう。
この儀式によって日々の暮らしはつつがなく営まれていく。
ある朝、家畜の放牧を担う4人の『仮面の民』が遠くの野原に出かけた。
数時間の後。
そのうちの1人、サバナがなだらかな丘の中腹に倒れ伏していた。
頭頂には青銅の斧が深く突き立てられており、
割れた白い仮面の隙間から覗く瞳は、もはや生気を宿していなかった。
・・・罪深い殺人鬼がここにいる。
遺骸を前にして、互いへの信頼は残されていない。
残された3人の『仮面の民』は嫌疑(けんぎ)のまなざしを向けあった。