アトラス・アズ・ロマンス

- Collection007 -

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【シリーン】
キャラクターシート

キャラクターシートを読み込んでください。(目安時間10分)

基本情報

※ゲーム上、比較的あたりさわりのない情報です。

最初に結婚した夫と別れ、遠い島からこの盆地の町場に移ってきてもう随分たつ。

ホレシュとの出会いは、1年ほど前だった。

盆地の北西、ゼレシュク・ポロウ区域のおよそ半分を網羅する地図帳を完成させたホレシュを、領主である貴族は褒めたたえ、豪勢な晩餐会に招いたという。

町場の一等地にある会堂でおこなわれた宴に遅くまでつきあわされたホレシュは、外れにある自宅には戻らず、私の営む宿にて束の間の逗留をすることになった。

「著名な先生が寄ってくださるなんて光栄ですわ」

「いえ、そんな大層なものでは・・・」

酔いざましに注いでやった水を、ホレシュはにこやかに受け取った。

「それに、まだ盆地中央以外は地図にされていない場所も多くありますから。

もっと仕事に励まなければ。娘との文通に、情けないことは書けません」

「まあ、素敵ね」

その時にはもう、彼のことを好きだったのだと思う。

衣服越しでもわかる鍛え上げられた肉体。それに似合わぬ紳士的な物腰。

年季を重ねつつも端正な面立ちには知性と熱意がみなぎっていた。


昨日の昼下がり、私は町場の外れにあるホレシュの住まいを訪ねた。

以前に夕食に誘われて以来、何かと理由をつけて屋敷へ顔を出すようになっていた。もう若くないのに生娘のような恋の熱にうかされる自分が恥ずかしくもある。

商店で見つけた上質な絹のスカーフ。鞄にひそませたこの贈り物が今回の口実だった。

交友のあまり広くないはずのホレシュに、少なくとも知人として親しく接してもらえていることは、私にとって十分に甘美なよろこびである。

地理の調査のために留守にすることも多いためか、門前に広がる庭の手入れはいきとどいていない。屋敷正面の玄関を閉ざす鉄の扉はいかにも重厚だが、相変わらず錠は錆びついていて役割を果たしていない。地図に熱中しがちなホレシュらしいとも言える。流石に不用心だから、鍵の修理をすすめるべきかもしれない。

薔薇の刺繍のスカーフを、喜んでくれるだろうか。はにかみを抑えて扉をくぐる。

しかし、1階の応接の広間にいたのは見知らぬ青年であった。

「あら、先客がいらっしゃったのね。私はシリーンと申します・・・」

「ファリドです。自分も今しがた到着したばかりで・・・お留守でしょうか」

ホレシュの姿は見えない。2階の書斎にいるのだろうか。

「あなたもホレシュ先生のお知り合いかしら?」

もしかしたら地図の仕事に関わる者かもしれない。機先を制して質問をなげかけてみた。

「ええ、ここへもたまに。先生とは南のルビヤ・ポロウ区域で知り合いまして」

ファリドは広間の壁にかかっている書きかけの地図のうちの一枚を指さした。

隅のほうに小さな地形と地名が、ホレシュの筆致で書き記されている。湖のようだ。

「まさしく、あそこの図にも載る『薔薇の舞う湖』のほとりですよ」

そうか。青年は多分、ホレシュが地図を作るため出向いた先で知り合ったのだろう。

そう考えた途端、自分のもってきた贈り物が場違いに思えてきた。

ホレシュは野を駆けるたくましい測量家だ。社交界で見栄を張る男などではないのだ。

旅路で汗を拭うのに、うわついた刺繍のスカーフを使うはずがない。

「そうなのね。・・・あ、私はただ少し立ち寄っただけですから、これで・・・」

自分はなんと卑しくて、厚かましくて、愚かな女なのだろうか。

私は羞恥にはりさけそうになる心を抑えて、屋敷から足早に立ち去った。

重要情報

※ゲーム上、話しすぎると不利になる可能性があります。

夕闇があたりを浸すまで、すこし離れた道の傍らで空を見ていた。

それでもスカーフを届けようと意を決したのは、今月がホレシュの誕生月であるからだ。


それを知ったのはつい数日前、彼の屋敷に簡単な夕食をさしいれたとき。

その雑談のついでに私はかねてから気になっていたことを尋ねたのだった。

「離れて暮らしておられる娘さんがいるのよね。

・・・お元気でいらっしゃいますの?何か素敵な贈り物はもらえました?」

彼が妻とずいぶん昔に死別したらしいことは聞いていた。ただ、娘のことについてホレシュはすすんで多くを語らない。だから思い切って水を向けたのだ。

彼は、突然の質問に面食らったようだが、控えめな微笑みを浮かべて答えた。

「・・・ええ、はい。この前、薔薇の花を贈ってくれましたよ」

もし娘さえいなければ、私と彼はひとつに・・・。

あのとき脳裏によぎった邪な恋心は、われながら恐ろしいほどに打算的だった。


とにかく、そんな会話があったから、ホレシュは薔薇が好きなのだと私は考えていた。

だから薔薇のスカーフを選んだのだ・・・。ふたたびホレシュの屋敷の前に辿り着いたとき、まだファリドが居座っているのではないかと不安が残った。

だから、鞄から取り出したスカーフは、玄関の鉄扉の前にそっと置くことにした。

これでいいのだと自分に言い聞かせるなか、夕暮れの道の向こうから屋敷のほうへ人影がせまってくる。若い女だ。その足取りは実に軽やかであった。

急に、灰色の感情がこみあげた。

・・・もしかしたら、あの女は。もしかしたら、特別な関係で。

もしかしたら、私が触れたことのないホレシュの体温さえ知っているのかもしれない。

私は走って反対側へ逃げていた。疑惑や嫉妬にふりまわされる自分が情けなくてたまらなかった。年甲斐もなく、涙が頬を伝っていた。


そして今。この尋問室に喚び出され、私は取り調べを受けている。

突然すぎるホレシュの訃報は、いまだ実感がうすいまま頭の上を漂っている。

彼の仇を見つけ出すため、私は他の3人と対峙しなければならない。

多分、それだけが今の自分にできることなのだろう。

心に秘めたまま去り散ってしまった想いに、どうか救いがありますように。

ミッション

※以下のミッションにしたがってゲームを進めてください。

①ホレシュを殺した犯人が誰なのか考える。
②自分が怪しまれないようにする。

全員がキャラクターシートを読み終えたら、議論パートへ進んでください。

議論パートへ

概要

あらすじ

もともと、このポロウ盆地一帯はひなびた僻地であった。

とりたてて優雅な風景も、さしあたって便利な要所もない。

蕁麻(いらくさ)の茂る谷あいに、ぽつりぽつりと集落が点在するのみであった。

事情が変わったのは20年前。

とある気ままな地方貴族が、この盆地の開拓と整備に乗り出してからだ。

彼はあまり働かず、家来たちが代わりに働き、下人たちはそれよりも更に働かされた。

なにはともあれ。一団が入植に励んだ甲斐あって、今や盆地中央にはささやかな賑わいの町場ができあがっている。

周辺からの移住も着々と増える今日、ポロウ盆地はさしずめ小さな自治領とも言えよう。


さて。これまでもこれからも盆地の開拓にあたって必要不可欠なものがあった。

それは土地をよく知ること。つまり、地図である。

そこで活躍したのが、有志の測量家たちだった。

中央の町場のあれこれで手いっぱいの領主の一団に代わり、測量家たちはポロウ盆地のはしからはしまで東奔西走。

川、林、谷、道、集落・・・多くの地形と地名の情報をかき集め、地図帳を製作した。

社会への貢献のため。測量家としての誇りのため。

そしてもちろん、地図帳と引き換えにもらえる領主からの報奨金のため。


ポロウ盆地は広い。いまだ地図帳に載らぬ場所もまだまだ残っている。

ここ数年は、金貨を稼ぐために盆地を駆けまわる測量家志望の若人も多くなった。

しかし。そんな新参者どもにおしもおされぬ偉大な測量家がいた。

それが此度(こたび)の事件の被害者、ホレシュ氏である。

南のルビヤ・ポロウ区域、東のバガリ・ポロウ区域、北西のゼレシュク・ポロウ区域・・・

彼はいくつもの辺境地へ足を踏み入れ、羊皮紙に筆を走らせた。

調査、計測、製図、提出、また調査、計測、製図、提出。

続々と描きあげられる何冊もの地図帳は領主たちにも好評で、ホレシュ氏はめっぽう重宝されていたのだが・・・。

とにかく。彼は死んだ。


「みなさんご存知のように、昨晩、ホレシュ先生のご遺体が発見されました」

話しているのは、町場でおこる事件の捜査を任される年配の審問官だ。

「場所は、ご自宅の書斎。死因は、左側頭部にうけた殴打。

ご遺体の近くには、血痕のついた陶器の花瓶が落ちていました。凶器でしょう。

部屋じゅう荒らされていましたし、おそらくそこで殺されたと見て間違いない」

審問官は、木格子のむこう側の4人の男女を見やりながら続ける。

「先生の家の近くには、足の不自由なご老人が住んでいましてね。

そのひといわく、昨日、窓の外から見かけたのはあなたたち4人だったそうです」

4人は、ほとんど牢獄と言ってもいい尋問室にて粗末な椅子へ腰かけている。

「すみません。本来ならひとりずつ取り調べるべきですが、なにぶん忙しくて。

どうでしょう。おたがいの証言を照らし合わせて犯人をはっきりさせませんか」


右隣の別の尋問室であがる声が、4人のいる部屋まで響いてくる。

「あたしが盗人だって言うの!?」

「おいおい、正直に認めたほうが楽だぞ」

激高する被疑者の声。なだめる若い審問官の声。

建築が度をこして質素であるせいだろう。問答は壁越しにつつぬけである。


「ああ、隣がうるさくて申し訳ありません。領主様は開拓のほうにご関心が強くて。

ここの設備や人手には、やすやすと金貨が回ってこないのです」

年配の審問官は白髪頭をさすりながら言い訳がましくぼやく。

「ま、とりあえずみなさんの知ることをつきあわせてみてください。

おたがいをうたぐりあって結構ですよ。わたしも適当に口をはさみます」

審問官は4人に有無を言わせず喋り終えると、最後に疲れをにじませて嘆息した。

「拍子のわるい事件です。・・・我々もホレシュ先生へ報告したいことがありましたのに」

プレイ時間の目安

キャラシート読み込み

10分
議論パート①

10分
議論パート②

10分
議論パート③

15分
議論パート④

15分

※議論パート毎に、新たな共通情報①〜④が追加されます。

推理パート

5分
結末、得点計算パート

15分
合計時間

80分

キャラクター選択

プレイヤーはそれぞれ重複しないようにキャラクターを選んでください。

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