つづりあわせの流儀

- Collection006 -

結末



話が長くなりました。

・・・最初に私は、

『仮面の民』の記録にもとづいて出来事を語ると言いましたね。


私たち『仮面の民』は超常的な力を持つわけではありません。

ただ、「人間」の名前についての捉え方が、あなたがたとはだいぶ違っています。

だからこそ記録の形式も違うのです。


あなたがたの名前は、それぞれの人体に与えられている。

特定の人体と、それに対応する名前。それがあなたがたの捉え方です。

我々、『仮面の民』は、ひとつひとつの人体には名前をつけません。

『仮面の民』は、特定の役割に名前を与えるのです。

例えば・・・サバナ。

これは「白色の仮面を被る者」の呼び名だとお考えください。

「白色の仮面を被る者」は、サバナとして生きて、サバナの役割を果たす。

それを、サバナという1人の『仮面の民』と捉える。

白色の仮面は、サバナであることを示す象徴と言えます。

あえて言えば、あなたがたの使う「国王」という称号と似ているでしょう。

国王とは、「国を統べる役割を持つ者」の呼び名。

王冠は、国王であることを示す象徴。


そして『仮面の民』にとっては、白い仮面を被って役割を果たせば、

男でも、女でも、年寄りでも、赤ん坊でも、そのどれもがサバナという「人間」になりうる。

逆に、ひとつの人体が、あるときにはサバナとして過ごし、

また別のあるときにはザンジュとして、スワヒリとして、バントゥーとして過ごす。

そう、互いの仮面をつけかえることによって。

この習慣こそが『つづりあわせ』。

『つづりあわせ』とは、仮面の交換なのです。

つまり名前と役割が入れ替わるということであり、

裏返せば、肉体が入れ替わるということでもあります。

『つづりあわせ』によって肉体の交換が途切れなければ、

1人の『仮面の民』が数百年も存在し続けるということもなりたつのです。

王位の継承を重ねてその中身が入れ替わっても、

「国王」という称号と役割そのものが、ずっと存在し続けられるのと同じく。


・・・このような「人間」の捉え方をしているゆえに

『仮面の民』の名前をもとに記録を行えば、

1人の「人間」の記録は、複数の人体による行動のつぎはぎとなります。

いわば、ある日の鬼ごっこについて記すとき、

そこで遊んでいるひとつひとつの人体の記憶について記すのではなく

鬼役の行動の経緯について記すようなものです。


この王国に逃げ込んで生活するうち、

私は、あなたがたの「人間」の捉え方もすこし理解できるようになりました。

「人間」という存在について、文化によって異なる認識があることを知ったのです。

それを比較分析する研究が、私の至ったところでした。


・・・最後になりましたが・・・

さきほど話した出来事の真相は、実にあっけないものです。

あの野原には4人の『仮面の民』がいた。4つの人体があった。

老いた体、屈強な体、華奢な体、病に蝕まれた体。

そのときたまたま屈強な体であったザンジュが

そのときたまたま華奢な体であったサバナを見て、そこに肉欲を覚えた。

しかしそれを拒まれ、はずみで殺めてしまった。

本当にそれだけの、どうしようもない愚行。

どうか私を軽蔑してください。

あなたがたの意味する「人間」としても、『仮面の民』の意味する「人間」としても。

そのために顔を覆っているのですから。

かつてともに愚かな罪を犯した、この黒い仮面で。

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