王都では、聖騎士団の出発の準備が整っていた。
「団長、兵力が揃いました」
「ご苦労。同志ヤーコフの手柄である。無事であるといいが」
「神々のご加護があるはずです。それでは、出発の号令を」
「うむ」
・・
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未亡人ヴァルヴァラの回想
「1年前、病で夫を失った。・・・私が看病しなかったせいだと周りから疑われた。
頼れる身寄りはなく、手に職もなかった。
周囲の中傷に耐え切れず、半年ほど前に南端の外れの小屋に移りすんだ。貧しく、心細かった」
木こりのユスチンの回想
「ヴァルヴァラはそこで体を売るようになった。対価は食糧や雑貨だった。
俺みたいなひとり者の野郎が村には何人かいて・・・そう、ヴァルヴァラを買ってた。
村の連中も知ってたぜ。公然の秘密だ。
ガキどもには『悪魔の棲家』に近づくなって、大人みんなで言いくるめてたんだよ。
しょうがねえだろ!ヴァルヴァラも、生活のためだって納得してたさ!」
農夫のピョートルの回想
「俺は、死んだ恋人を忘れるつもりはない。ヴァルヴァラを買ったことはないさ。
だが、憐れに思った。同情のつもりじゃねえが・・・時々、食糧を届けにいったよ。
3か月前うちの犬が子犬を産んで、そいつをやった。せめてもの慰めになればと思ってな。
ヴァルヴァラはドナートって名付けて可愛がってた・・・。
だが昨日の夕方、ヴァルヴァラの小屋は燃やされた。
俺が火の手を発見したとき、逃げ去った背格好・・・子どものものだった。
炎も煙も普通じゃなかった。特殊な火薬でも使ったようだった。
ひとりでは消火できないと感じて、アズレトさんを呼びに行った」
聖職者アズレトの回想
「幸い、水汲みに出ていたヴァルヴァラは無事で、火も私たちで消し止めることができましたが・・・。
逃げ遅れた子犬のドナートは死んでいました。
かねてから私は、ヴァルヴァラのおこないも、そうせねば寡婦が生きていけないこともわかっていました。
ただ、戒律によって姦淫が禁じられている手前、見て見ぬふりをしてきました。愚かでした。
村に戻るよう、私はヴァルヴァラを説得しました。今度こそ味方になりたかったのです。
しかし彼女の絶望は深かった。私をふりきって、森の方へ逃げ去っていきました・・・。
その夜にヴァルヴァラを見つけることはできず、今朝、私は村の大人たちを聖堂に集めました。
ヴァルヴァラを連れ戻し、過ちや苦しみを皆で理解しあうべきだと訴えるために」
謎の男ヤーコフの回想
「ナターリヤに放火をけしかけたのは僕だよ。
獣に襲われたときに落とした鞄。それをイワンが秘密基地とやらに持ち帰ったのはきいていたからね。
中に入っていた火薬の袋が無事で助かったよ。あれは大事なものだった。
怪我をしたのは災難だったが、目的地だったこの村に辿り着けたのだから結果的には幸運かな。
異端の者どもとはいえ、『戒律』は僕らと共通していて、『祈りの言葉』もほとんど同じ。
面白いね。まあ、もっと根本的なところで信仰に背いているけれど・・・。
ん?ヴァルヴァラ?
別になんの興味もないよ。僕はただ、煙をあげたかっただけさ」
・・
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王都の信仰の守護者、聖騎士を率いる団長が叫ぶ。
「全団員に告ぐ!
昨日、同志のあげた狼煙によって異端どもが潜む場所は報せられた。
かつて信仰をねじまげて追放された異端どもが落ち延びていたのは、南南西の方位の山中だ。
奴らは、空を司る偉大なる二神のうち、月の神を認めぬ邪教である。
もはや人ではないと心得て、全力で殲滅せよ!・・・出立!」
軍馬の蹄が地を蹴った轟音のうねりが、山間の小さな村落へ近づいていた。
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