日が暮れていくのも忘れて、3人は言葉を重ねた。
互いの話しうることを洗いざらい喋りおわったあと、泣き出しそうなソムチャイが切り出す。
「連れて行ってくれないかな、『ドクター』の墓」
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これは、数奇な愛の顛末。
ある小さな村に、仲睦まじい夫婦がいた。
あるとき、夫のソムチャイは戦地へ徴兵される。
村に帰ってきたときには、ぼろぼろの遺骸だった。
発明家であった妻のメイは嘆き悲しんだ。
そして、持てる知識や技術のすべてをつぎこんで夫を蘇らせた。
いや、夫とよく似た人造人間を新たに作りだしたのだ。
だが、死んだはずの夫の姿を、周囲の目に晒せようはずもない。
妻は嘘をつき、夫を家の中に隠し続けた。
ある日、夫が言った。外に出よう、と。50年に一度訪れる彗星を見たい、と。
妻は、この偽りの日々を終わらせなければならないと悟った。
彗星の前夜。
妻は、眠る夫の首の裏にある装置に触れ、起動を停止させた。
人形のように動かなくなった肉体。
一昼夜が過ぎ、空を彗星が通りすぎる頃でも、妻はその体を抱き寄せて泣哭(きゅうこく)していた。
その後、妻は社会の発展に寄与するような研究に没頭した。罪滅ぼしのつもりだった。
そして、発明家として大きな功を成した。
開発された技術を享受した小さな村は、大きな街へと変貌していく。
幸運なことに戦禍にも巻き込まれず、着実に栄えていった。
だが妻は表舞台で名誉を受けることもなく、過去を戒めるように過ごした。
最愛の人の命を操ろうとした己を許すことはできなかった。
かつて夫と植えたドラセナが育つのを、ただ静かに見守った。
寺院の塔を建てたのは約束を守るためだった。
空のよく見える展望室に、動かない夫を安置した。
いつまでも朽ちないその肉体は遥かな時を経て、また次の彗星を臨むだろうか。
そのとき妻はまだこの世にいるだろうか。
夫が活動を停止してから50年後、
ちょうど彗星が訪れるその日に、
首元の装置に衝撃が加えられ、夫の体は偶然にも再び起動することとなる。
そのとき妻はもうこの世にいなかった。
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「やっと、会えたね」
ソムチャイは小さな墓の前に身をかがめる。
「僕にとっては昨日のことのように思えるんだけど・・・
ずいぶん長い間、待たせてしまったようだから」
紺色に染まりつつある空は、静寂。
少し離れたところで男女が佇む。
プリチャはうつむいて言う。
「・・・ごめん、わたしね・・・」
クワンは空を見上げながら言う。
「50年後もよ。また一緒に見ような、この星」
「・・・ねえ、メイ。見えるかな?」
青年と墓碑。
遥か彼方には、まばゆい尾をひきながらきらめく彗星。
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