コメット・コンプレックス

- Collection003 -

結末

日が暮れていくのも忘れて、3人は言葉を重ねた。

互いの話しうることを洗いざらい喋りおわったあと、泣き出しそうなソムチャイが切り出す。

「連れて行ってくれないかな、『ドクター』の墓」


これは、数奇な愛の顛末。

ある小さな村に、仲睦まじい夫婦がいた。

あるとき、夫のソムチャイは戦地へ徴兵される。

村に帰ってきたときには、ぼろぼろの遺骸だった。


発明家であった妻のメイは嘆き悲しんだ。

そして、持てる知識や技術のすべてをつぎこんで夫を蘇らせた。

いや、夫とよく似た人造人間を新たに作りだしたのだ。


だが、死んだはずの夫の姿を、周囲の目に晒せようはずもない。

妻は嘘をつき、夫を家の中に隠し続けた。

ある日、夫が言った。外に出よう、と。50年に一度訪れる彗星を見たい、と。

妻は、この偽りの日々を終わらせなければならないと悟った。


彗星の前夜。

妻は、眠る夫の首の裏にある装置に触れ、起動を停止させた。

人形のように動かなくなった肉体。

一昼夜が過ぎ、空を彗星が通りすぎる頃でも、妻はその体を抱き寄せて泣哭(きゅうこく)していた。


その後、妻は社会の発展に寄与するような研究に没頭した。罪滅ぼしのつもりだった。

そして、発明家として大きな功を成した。

開発された技術を享受した小さな村は、大きな街へと変貌していく。

幸運なことに戦禍にも巻き込まれず、着実に栄えていった。

だが妻は表舞台で名誉を受けることもなく、過去を戒めるように過ごした。

最愛の人の命を操ろうとした己を許すことはできなかった。

かつて夫と植えたドラセナが育つのを、ただ静かに見守った。


寺院の塔を建てたのは約束を守るためだった。

空のよく見える展望室に、動かない夫を安置した。

いつまでも朽ちないその肉体は遥かな時を経て、また次の彗星を臨むだろうか。

そのとき妻はまだこの世にいるだろうか。


夫が活動を停止してから50年後、

ちょうど彗星が訪れるその日に、

首元の装置に衝撃が加えられ、夫の体は偶然にも再び起動することとなる。

そのとき妻はもうこの世にいなかった。


「やっと、会えたね」

ソムチャイは小さな墓の前に身をかがめる。

「僕にとっては昨日のことのように思えるんだけど・・・

ずいぶん長い間、待たせてしまったようだから」

紺色に染まりつつある空は、静寂。


少し離れたところで男女が佇む。

プリチャはうつむいて言う。

「・・・ごめん、わたしね・・・」

クワンは空を見上げながら言う。

「50年後もよ。また一緒に見ような、この星」


「・・・ねえ、メイ。見えるかな?」

青年と墓碑。


遥か彼方には、まばゆい尾をひきながらきらめく彗星。

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