基本情報
※ゲーム上、比較的あたりさわりのない情報です。
昨日の昼前。私は町場の外れにあるホレシュの屋敷へ向かっていた。
身を包む衣は、あえて地味で見すぼらしい木綿を選んだ。
ついふた月ほど前に移り住んだ小さな家は、彼の住まいからもそう遠くない。
私は数週間前から、ホレシュから地図の製作にまつわる知識を教授してもらっている。
親切な彼は、各地への調査の合間をぬいながら丁寧な指導をほどこしてくれる。
インクの匂いの立ち込める彼の書斎で、地図の断片が記された羊皮紙に囲まれながら教養を身につける時間は、私にとってかけがえないものだ。
屋敷への到着も目前というところで見知らぬ中年の男とすれ違った。
「あんた・・・ホレシュ先生のお知り合いかい?」
年齢はホレシュとほとんど変わらない様子。友人だろうか。言葉尻にはかすかに訛りがある。辺境の人間なのかもしれない。
「・・・はい。ギティです。どうぞよろしく」
私は、なるべく普通の若い女に見えるように挨拶を返す。
「俺はパヤーム。先生とは、割と長い付き合いでね」
「そうですか。私は幼い頃から先生にお世話になっています」
会話はそれっきりで、パヤームは町場の方へ帰っていくようだった。
私はしばらく考えた後、自宅にきびすを返した。
ホレシュの家で何らかの集いが開かれている可能性を想像したからだ。
再びホレシュの屋敷へ向かったのは、夕闇があたりをおおう頃だった。
遅い時間になれば、他の来客がいるおそれも少ないだろうと踏んだのだ。
彼の住まいのすぐそこに迫ったとき、正面の玄関を閉ざす扉の前にたたずむ年長の婦人の影を見つけた。
彼女はこちらに気づいたやいなや反対側へ走り去り、姿を消した。
私はいぶかしく思って、手入れのいきとどいていない庭を横切りながら婦人がいた場所に目をやった。
薔薇の刺繍のほどこされたまっさらなスカーフが落ちている。
彼女の身なりに比べて、いくぶんか高級そうに見えた。
不審に感じながらも玄関の鉄扉をおしあける。いつものように鍵はかかっていない。ひどく錆びついた錠が、本来の役割を果たせていないせいだ。
1階の広間にホレシュの姿はなかった。壁にかけられたいくつかの地図はホレシュの記したものだ。いまだ完全には調査しつくされていない南のルビヤ・ポロウ区域や北西のゼレシュク・ポロウ区域についての一部分だ。空白の箇所もある。
うって変わって、階段を上った2階の書斎には異様な光景が広がっていた。
ガラスの割れたはめ殺しの窓。乱雑にちらばる室内。こときれたホレシュの姿。
恐怖と混乱に襲われるなか、それでもかすかに残った私の理性は足を動かし、町場の審問官たちへ事態を知らせるために薄明の道を駆けさせていた。