基本情報
※ゲーム上、比較的あたりさわりのない情報です。
俺の生まれは盆地の東にある辺境、バガリ・ポロウ区域だ。
20年ほど前、物好きな貴族が開拓をはじめたという噂をたよりにして、若かった俺は谷あいの退屈な田舎の集落を飛び出て、盆地中央にやってきた。
目を閉じれば、この町場が活気づいていく当時の光景がよみがえる。木工の職でなんとか食っていけるまで、がむしゃらに働いてきた自分の半生も。
あの頃からホレシュの活躍は聞き及んでいた。他の測量家たちがためらいがちな遠方まで足を運び、果敢に地理の調査に励んでいるという彼の噂は、市井でも話題にのぼった。
ポロウ盆地の中央から更に先へ、開拓を拡大したい領主たちからの信頼も厚いだろう。
あるとき、商店でバガリ・ポロウ区域の大部分がまとめられた地図の束を見かけて、俺は気まぐれでそれを購入した。領主からお墨付きを与えられたホレシュの地図帳の写しは、たいてい町場でも売り出されていたのだ。
地理の記された羊皮紙をめくりながら、圧倒されるしかなかったのを憶えている。
かつて生まれ住んだ故郷の谷。あの渓流も集落も、取るにたらないものだと思っていた。
だから俺はそこを見限って、町へ出た。振り返ろうともしなかった。しかし、手元の地図の数々には、俺さえ知らなかったバガリ・ポロウの隅々までもが克明に描かれている。
「・・・あ」
地図帳の中ほど、そこに載るのが自分の住んでいたあたりだと気づいて、俺は息をのんだ。
懐かしき郷里、『せせらぎの村』は確かにそこに記されていた。
気恥ずかしいような、誇らしいような気分がした。
そうか。ホレシュはあそこまで歩いたのだ。あの場所を見つけだしてくれたのだ。
実際に彼と対面したのは、3年ほど前のことになる。
雑踏に構えている小さな店の軒先を通りかかったホレシュに、俺は勇んで声をかけた。
「地図帳を買ってくださったのですか。それはありがとう」
紳士的な物腰のホレシュは、実際につき合っても温和な人物であった。
俺たちが打ち解けるのに時間はかからなかった。自分の仕事に手すきがある時季などは、町場の外れにある彼の屋敷へしばしば顔を出すようになった。
ホレシュはことさらに友人や知人を作るような気風ではないらしいが、おたがいの年の頃も近く、子を持つ親同士だということもあって、俺には心を許したのだろう。